WHOはじめ国連専門・関係機関など国際機関において、中国の存在感が高まり支配力を強めている。トップポストから重要ポスト、プロパー職員までを中国出身者や親中派によって陣取ることで、国際場裡の表裏を操縦しようと試みる。

現在、国連の15専門機関のうち4機関(国連食糧農業機関FAO・国際民間航空機関ICAO・国際電気通信連合ITU・国連工業開発機関UNIDO)のトップを中国が担う。ICAOでは2016年から台湾の総会への参加を認めず、ITUにおいては中国が国家監視可能な新IP(インターネットの通信規約)を提案している。また世界保健機関WHOは2017年香港出身の事務局長から台湾のオブザーバー参加を排除した。今般のテドロス事務局長は中国支援による左派組織“エチオピア人民革命民主戦線”で活動し、保健相、外相を経て2017年に選任された。中国の国際機関での存在感には、自国にとって有利な施策を進め、自国政策を国際標準にしようとする意図が見える。

国際機関の選挙にはトップポストや委員等の人と理事国等の国を選ぶものがあり、投票権は各国の人口、経済規模、分担金に拘らず概ね1国1票である。中国は、一帯一路圏の親中“国”からの安定した集票体系を背景に、他国の候補者と連携せずとも一国のみで選挙に臨むことが可能であり、加えてエコノミックステイトクラフト(経済力を駆使した外交術)を弄し、結果、トップポストや要職を手中に収めている。もとより一党独裁の長期的な要員計画の下、豊富な人材を世界の学術分野、先端企業、インフラ・エネルギー等の基幹産業に張り巡らせる構図と同様、広範な国際機関の各級プロパー職へ積極的に配置している。

翻って、我が国は、国連専門機関トップに出身者は存せず、選挙を経た国際機関トップへ3名(アジア開発銀行ADB総裁・地球環境ファシリティGEF統括管理責任者・世界関税機構WCO事務総局長)が就いている。また人材の輩出に苦慮し、負担金額に比べ職員数が過少となっている。

国際機関のガバナンスは、中立性・法の支配が大前提である。その責任を我が国が主導的にルール形成過程へ反映するためには、例えば国際会議ではテーブル(ファシリテーション)マネジメントが行える人事構成において、我が国および邦人のプレゼンスを上げることが求められる。

「有為な人的資源を国際機関の各層へどのように起用するか」

その視点から、長期の人材育成・人事戦略を政府で一元的に所掌すること、あわせて日本にとって要衝である機関のトップポスト獲得に向け進展することを提言する。

トップポストの資質には語学力、マネジメント能力、当該分野の専門知識・経験が必須である。さらに近年、閣僚以上の経験やジェンダーの要素も必要となってきている。グテーレス国連事務総長はポルトガル首相、グリアOECD事務総長はメキシコ外相・財務相、アズレーUNESCO事務局長はフランス文化相(参考:1999~2009年 松浦晃一郎事務局長は元外務省北米局長)の来歴を持つ。

選挙へ閣僚経験者を擁立するには、政治家サイドが覚悟を持って送り出す支援(出馬環境や選挙後の担保を政権および自民党で整備)体制をつくらなければ具現化しない。また閣僚経験者の国際機関と往来するキャリアパスが浸透することは、内向き志向と言われる日本人、特に若年層の海外進出へ好影響であると考えられる。2021年にICAO、UNIDO、OECD、国連(事務総長)、UNESCOなど、2022年にWHO、ITU、国際労働機関ILOなどの選挙を控えている。我が国は価値観を共有する諸外国と連携し、日本人トップポストをどの機関で狙うか見極めなければならない。

 各省庁職員においては、国際機関の任命ポストへのロールモデルとして当該機関を往来しスペシャリストへと育成するため、政府で情報を網羅し一元的に長期の人事戦略をとることを切望する。

結びに、国連安全保障理事会の常任理事国入りへ弛まず志向することは論を俟たない。

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