――国家安全保障局(NSS)に経済安保のための経済班が4月1日にようやく発足した…。

中山

昨年3月、自民党のルール形成戦略議員連盟(甘利明会長・中山展宏事務局長)は、約70名の所属国会議員と半年間の議論を経て「国家経済会議(日本版NEC)創設」の提言を取りまとめた。そして5月、甘利会長と私で安倍総理を訪ね、膝を詰めて提言した。その際、米国と同様、国家経済会議(NEC)を創設し国家安全保障会議(NSC)とともに経済外交と安全保障政策の司令塔として車の両輪のように機能することを求めたが、同時に次善策として、2014年に発足した日本版NSCの中に、我が国の安全保障に資する戦略的外交・経済政策を担う組織をまずは作るべきと申し上げた。準備の上、本年4月からNSCを補佐する国家安全保障局(NSS)で経済班がいよいよスタートした。

我が国は戦後、経済発展を優先し、科学技術やものづくりを原動力に世界経済の中で魅力を放った。他方、例えば北朝鮮製の初期のスカッドミサイルには、秋葉原で誰もが購入可能な電子部品が使われていた。原始的なデュアルユース(軍民両用)だ。世界は異なる政治体制のもと、パワーバランスの変化や国家資本主義と自由主義経済の非対称な競争も繰り広げられ、軍民融合が進められる。先端技術が学術界や軍需からだけではなく、産業界からも生まれる潮流において、安全保障の視座も踏まえた経済外交に取り組む経済班の役割は重要だ。

――安全保障に資する経済外交の重要性が増している…。

中山

経済安全保障という言葉は、エコノミック・ステイトクラフトの概念を和訳する中で生まれた。安全保障を目的として経済力を駆使する外交戦術との意だ。日本政府が昨年7月から運用した韓国への半導体材料3品目の輸出管理の厳格化は、韓国企業を経由する軍事転用を防ぐ措置であり、WTO(世界貿易機関)協定おいても安全保障上の貿易制限は例外として規定されている。さらに安全保障上の勢力拡大を狙い、宇宙・海洋を含むフィジカル空間とデータをはじめサイバー空間において、人的資源・科学技術・知的財産・金融・投資、そして国際ルール形成などを有機的に駆動させ、覇権していこうとする大国の世界戦略と我が国は対峙しなければならないと考える。NSS経済班と同調し、外務省でも新安全保障課題政策室が起動した。安全保障に係る外交政策のうち、経済・技術・サイバー他、新たな安全保障上の課題へ対応する。

――中国を念頭に信頼できない国と協力することは難しいという声が世界中で高まっている…。

中山

中国は2013年頃から複数の経済回廊を模索し、世界を二分する一帯一路へ繋がる経済圏構想に挑み、道路・港湾・発電所・パイプライン・通信などのインフラ投資、製造・金融・貿易・電子商取引などの対外投資を進めている。アジアインフラ投資銀行も2013年に設立された。スリランカはインド洋への要衝である南部のハンバントタ港の開発を中国に依存したため債務の罠に陥り、2017年に中国企業へ99年間の運用権を譲った。元来、ランドパワー(内陸勢力)に立脚する中国が、リムランド(沿岸地帯)を制しシーパワー(海上勢力)をも志向している証左と受け止める。

我が国は2016年、自由で開かれたインド太平洋を掲げ、法の支配、航行の自由、自由貿易の定着へ腐心している。産業政策では2015年、中国が2025年までに世界の製造強国入りすることを標榜し、中国製造2025を発表。イノベーション駆動、環境保全型発展、構造最適化などの方針のもと、半導体や5Gの次世代通信技術・省エネ新エネ自動車・バイオ医薬などの重点10分野、23品目で意欲を示した。あわせて、2017年より国家体制の維持を目的とし、国内外の組織や個人に情報収集を強いることが可能な国家情報法が施行されている。他方、米国は中国による強制的な技術移転、知的財産権の侵害、国有企業への優遇策などを憂慮し、安全保障に関する予算や運用へ法的根拠を与える国防権限法と連動し、2019年から矢継ぎ早に法体系を整え、中国の戦略分野を網羅する。人工知能やロボット、測位技術、先進監視技術など14分類47項目において流出を防ぐ措置を強めている。

例えば、中国ファーウェイ・ZTE社からの通信機器や映像監視サービスの利用禁止であり、米国は殊に先端基盤技術や知財の流動について、いわゆるファイブアイズである英・加・豪・ニュージーランド、安全保障上のホワイト国、相互に信頼関係のある価値共有国との間で限定しようとする傾向が顕著になってきている。サプライチェーンのデカップリングもしくはブロック化である。しかし、東アジアで我が国と近接する中国の巨大マーケットや生産拠点としての優位性も考慮しなければならない。

――経済班として最優先事項ととらえているものは…。

中山

NSS経済班は4月発足早々、新型コロナウイルス感染症に係る入国制限など水際対策、マスクをはじめ公衆衛生用品や医薬品原料の調達、治療薬の臨床試験のための提供先選定を統括し、奔走している。余談だが米国はトランプ大統領のもと、国家安全保障会議にあった感染症対策チームを2018年に解散させてしまっていた。世界がコロナ対応で傾注する中、中国はマスク提供も外交上の戦略ツールとして捉え、さらには行動自粛による経済社会の停滞の影響を受け、資金繰りに窮している企業へ買収を持ちかける。今次のコロナ禍で顕在化したサプライチェーン・リスクや日本の社会システムの脆弱性に対応しなければならない。サプライチェーンの強靭化、再構築、最適化へ、そして先般改正した外為法にもとづき機微技術を有する企業への外資規制に注力する。そしてポストコロナ、ウィズコロナの社会変革へ経済安全保障の視点を前提に組み込むことが要諦だ。

経済班は発足準備の段階からデジタル通貨、また外務省と経済班はWHO(世界保健機関)をはじめとする国連専門・関係機関のガバナンスについて論点整理をおこなってきた。2022年北京冬季五輪までにはデジタル人民元が発行されるようだ。すでに中国においては、中国版プラットフォーマーであるアリババやテンセントのような民間企業がキャッシュレス決裁の市場を席巻し、個人情報はじめ消費動向を採取蓄積している。中央銀行である中国人民銀行はデジタル人民元を発行することで、すべての資金の流れを監視し、付随する商流・物流データを捕捉することが可能となる。当然、人民元のキャピタルフライトを抑える金融措置を高い精度でおこなえるようになる。さらにデジタル人民元は、一帯一路圏での決済を糸口に、抵抗力のないアフリカ諸国や太平洋島嶼国の日常生活における金融包摂を生み出すであろう。人民元を主軸とした経済圏の出現やSWIFT(国際銀行間通信協会)ネットワークを必要としない国際送金システムは、現行の米ドル基軸通貨体制を脅かし、米ドル建て取引を前提にした金融制裁の無力化を意図する。

ニューノーマル(新たな日常)では、現金授受による感染を忌避しキャッシュレスは進む。デジタル通貨発行へ国際環境の起動準備を急ぐべきである。コロナ禍においても、WHOの中国による支配力が危惧された。現在、食糧農業、民間航空、電気通信、工業開発分野の国際機関のトップを中国が担う。国際機関の中立・公平・透明性、法の支配を徹底するにあたり、我が国の存在は大きい。日本政府は次回G7の議長国である米国へサプライチェーンの強靭化、デジタル通貨、国際機関のガバナンスを主要議題として盛り込むことを調整している。

――サイバーセキュリティの専門家からは、日本はもっと監視を強化し、他国の諜報活動を含め、誰が何をしているかをきちんとチェックしなければいけないとの意見がある…。

中山

ニューノーマルの非接触型への行動変容は、デジタルトランスフォーメーションと合致し、データ駆動ネットワーク社会へと進展するであろう。サイバー空間は海底ケーブルや5G基地局、通信衛星などの電気・光信号の伝達媒体、PCやスマホといった物理層から、インターネット・プロトコル(通信規約)、近年はブロックチェーン技術によるデータベース、プラットフォーマー、AIも実装されたアプリケーションが搭載されることで実体化する。これらすべての層で信頼できるセキュアな環境を確保するため、日本政府・企業にもNIST(米国標準技術研究所)が示すサイバーセキュリティ標準と同等の対策が必要である。さらに付言すれば、前述の中国人の事務局長を擁するITU(国際電気通信連合)では中国企業がIoTに適応する新たなインターネット・プロトコルを提案した。機微な情報を扱う金融機関でもERP(基幹業務の最適化)システムへ中国企業からの浸食が見られる。経済安全保障の問題意識から反応すべきと考える。

もとより我が国ではプライバシー保護と公共の安全との関係性により、デジタル化は監視や個人情報流出へ繋がると心配される向きが市民社会にあり、マイナンバーの利活用についても丁寧に議論している。デジタル監視の管理社会への疑念を払拭し、現実を超える機能性を実装した「超現実仮想」へと変貌したい。

https://www.fn-group.jp/1568/

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